徳島地方裁判所 平成6年(ワ)288号 判決 1995年6月07日
主文
一 被告らは、原告小田俊博に対し、連帯して金一二六万五七九七円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告木村桂子に対し、連帯して金一二六万五七九七円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告小田拓也に対し、連帯して金六三万二八九八円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告小田奈津子に対し、連帯して金六三万二八九八円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は、これを七分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
七 本判決は、第一ないし第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
一 請求
1 被告らは、原告小田俊博に対し、連帯して金九〇六万四〇四四円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告木村桂子に対し、連帯して金九〇六万四〇四四円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告小田拓也に対し、連帯して金四五三万二〇二二円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告らは、原告小田奈津子に対し、連帯して金四五三万二〇二二円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 事案の概要
本件は、交差点内で自転車に乗つていて自動車に衝突された交通事故によつて死亡した被害者の遺族から、右自動車の運転者及び所有者に対して、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づいて、損害賠償を求めた事案である。
1 本件事故【争いがない。】
(一) 日時 平成五年一二月二四日午後三時ころ
(二) 場所 徳島市佐古三番町八番一九号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 被害者 小田美代子(当時七〇歳)
自転車運転中
(四) 被告車両 軽四輪貨物自動車(徳島四〇む五六三)
右運転者 被告谷勝美(以下「被告谷」という。)
右所有者 被告エスチイケイホンダ販売有限会社(以下「被告会社」という。)
(五) 態様 被告谷が、前記交差点内を進行中、被害者の運転する自転車に被告車両前部を衝突させて、被害者を路上に転倒させた。
2 結果
本件事故により、被害者は、急性硬膜下血腫の傷害を負い、平成六年一月三日に死亡した。【甲二】
3 相続関係
原告小田俊博と原告木村桂子は被害者の子、その余の原告らは被害者の二男(既に死亡)の子である。【甲一〇ないし一四】
4 損害の填補【争いがない。】
原告らは、本件事故の損害賠償として、合計二四九八万四〇三〇円を受領した。
5 争点
本件の争点は、次のとおりである。
(一) 事故態様。特に、原告の交差点手前での一時停止の有無。
(二) 過失相殺
(三) 損害額
三 争点に対する判断
1 争点(一)(事故態様)について
証拠(乙一ないし五、七、九ないし一四)によれば、次の各事実を認めることができる。
(一) 被告車両の進行していた道路は、幅約八メートル、制限速度時速三〇キロメートル、東から西方向に向つての一方通行、本件交差点の東側手前に一時停止等の規制のある道路である。
(二) 被害者の進行していた道路は、幅約八メートル、制限速度時速三〇キロメートル、北から南方向に向つての一方通行、本件交差点の北側手前に一時停止等の規制のある道路である。
(三) 被告谷は、右(一)の道路を東から西に向つて走行中、本件交差点の東側手前で一時停止の標識により停止したが、見通しの悪い左方向のみに注意をとられ、右方向及び前方の安全確認を十分しないまま発進、加速して、時速一〇ないし二〇キロメートルで本件交差点内に進入した。
【乙一二、一三号証中の右認定に反する部分は、乙三、五、一〇、一一、被告本人尋問の結果に照して、採用することができない。】
(四) 被害者は、右(二)の道路を北から南に向つて、自転車に乗つて走行中、本件交差点に進入した。
(五) 被告谷は、前記(三)認定のとおり、進路前方に対する十分な注意を欠いたまま本件交差点内に進入し、被害者に衝突直前まで全く気付かなかつたため、急ブレーキも間に合わず、被害者の運転する自転車に接触して衝突した。
2 争点(二)(過失相殺)について
前記二1の本件事故態様、前記三1認定の事実を総合考慮すると、本件事故の発生について、被害者の側にも一五パーセントの過失があつたものと認めるのが相当である。
3 争点(三)(損害額)について
(一) 逸失利益(請求額一五六四万八九一三円、認定額一四三六万六三七九円)
(1) 被害者が原告小田俊博が経営する会社の社員として現実に働いていた事実については、これに沿う甲三号証があるが、乙七号証の記載に照らしてこれを採用することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、被害者は、本件事故当時、満七〇歳の女性であり、専ら家事を行なつていたことが認められるから【乙七】、本件事故がなければ、少なくとも六年間家事を行なうことができ、被害者の本件事故当時の収入を金銭に換算すると、少なくとも平成四年度賃金センサス産業計・企業規模計・女子労働者学歴計の六五歳以上の平均の年収額(二七九万八五〇〇円)を得ることができたと推認するのが相当である。なお、後記(2)のとおり、生活保障的性格の強い遺族厚生年金及び老齢厚生年金の受給権が消滅したことに照らして、生活費控除は行わないのが相当である。
よつて、中間利息の控除について、新ホフマン方式により中間利息を控除して六年間の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、一四三六万六三七九円(二七九万八五〇〇円×五・一三三六、円未満切り捨て)となる。
(2) なお、原告らは、被害者が受給していた遺族厚生年金及び老齢厚生年金について、逸失利益となる旨主張する。
しかしながら、遺族厚生年金は、厚生年金法によれば、受給権者の死亡、婚姻等が受給権の消滅原因であり(同法六三条)、労働基準法七九条による遺族補償が行われるべきとき等には、一定期間その支給が停止されるものである(厚生年金法六四条ないし六六条)等と規定されており、生活保障的性質が強い年金であるというべきである(同法一条)。
また、老齢厚生年金は、厚生年金法によれば、受給権者の死亡により当然に消滅し(同法四五条)、受給権者によつて生計を維持していた遺族に対しては、遺族厚生年金が支給される(同法五八条、五九条)等と規定されており、やはり、生活保障的性質が強い年金であるというべきである(同法一条)。
したがつて、被害者が本件事故により死亡しなければ受給したであろう遺族厚生年金も老齢厚生年金も逸失利益として認めることはできない。
(二) 慰謝料(請求額二〇〇〇万円、認定額一八〇〇万円)
以上の認定、判断を総合考慮すると、被害者が本件事故によつて受けた苦痛を慰謝するには、一八〇〇万円が相当である。
(三) 葬儀費用(請求額一〇〇万円、認定額一〇〇万円)
弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は、少なくとも一〇〇万円を要したものと認め、原告らが法定相続分に従つてこれを負担したものと認めるのが相当である。
(四) 損益相殺等
以上によれば、本件事故によつて原告らに生じた損害は合計三三三六万六三七九円であり、前記三2判断のとおり、右損害のうち、被告が負担すべき損害としては、その一五パーセントが過失相殺により減額されるべきであるから、被告らは、合計二八三六万一四二二円(三三三六万六三七九円×〇・八五、円未満切り捨て)の損害を負担すべきである。
ところで、原告らは、本件事故によつて生じた損害について、既に二四九八万四〇三〇円の支払を受けたから、これを控除すると【争いがない。】、被告らは、三三七万七三九二円の損害を負担すべきである。
(五) 弁護士費用(請求額二四七万円、認定額四二万円)
本件と相当因果関係にある弁護士費用は四二万円と認めるのが相当である。
(六) 相続等
以上の次第であるから、被告らは、連帯して合計三三七万七三九二円の損害賠償義務を負い、原告らは、それぞれ法定相続分に応じて、被告らに対する損害賠償請求権を取得し、かつ、弁護士費用を負担するものと認めるのが相当である。
[(三三七万七三九二円十四二万円)÷三=一二六万五七九七円、
(三三七万七三九二円十四二万円)÷六=六三万二八九八円、いずれも円未満切り捨て]
よつて、主文のとおり、判決する。
(裁判官 髙橋文清)